「個人タクシーは儲かる」と聞く一方で、「やめとけ」という声も目にする。
どっちを信じればいいのか、迷っている人は少なくないだろう。
結論から言うと、個人タクシーが儲かるかどうかは、「平均年収」の数字だけでは判断できない。
売上が全て自分の収入になる一方で、経費・税金・社会保険も自分で負担するからだ。
この記事では、個人タクシーの収入について公的な資料で確認できる数字と、確認できない数字を分けて整理する。
あわせて、売上から手元に残る金額までの流れを、仮の数字の例で見ていく。

噂の数字に振り回される前に、その中身を確かめておけ。読み終わる頃には、自分の稼ぎを見積もるための物差しが手元にあるはずだ。
- 個人タクシーの収入について、公的に確認できる数字と、確認できない数字
- 売上・所得・手元に残る金額の違い(仮の数字の例つき)
- 法人タクシーとの比べ方と、儲かる人・儲からない人の違い
1.個人タクシーは儲かる?取り分と負担から見る
個人タクシーが儲かるかどうかは、売上の取り分の大きさと、自分で負担する費用の両方から見る必要がある。
売上は全て自分の収入になる
個人タクシーは、会社に所属せず、個人事業主として自分の車で営業するタクシーである。
法人タクシーのドライバーは、売上の一部が歩合として給与になる仕組みが一般的だ。
これに対して個人タクシーは、売上を会社と分け合う必要がない。
この点が「個人タクシーは儲かる」と言われる最大の理由である。同じだけ売り上げても、売上が全て自分のものになる分、取り分は大きく見える。
経費・税金・社会保険は自己負担
ただし、取り分が大きいことと、手元に残る金額が多いことは同じではない。個人タクシーでは、営業にかかる費用を全て自分で負担する。
主なものは次のとおりだ。
- 燃料代
- 車両の維持費・修理費・車検や点検の費用
- 保険料
- 駐車場代
- 決済や配車アプリの手数料
- 組合費など
さらに、売上や経費を記録する帳簿の作成、確定申告といった事務も自分で行う。
法人で働いていたときは会社が担っていた部分が、全て自分の仕事になる。
一言で「儲かる」と言えない理由
売上が同じでも、経費がどれだけかかるか、休まずに営業できたかによって、手元に残る金額は変わる。
働き方も、営業するエリアや時間帯も、自分で決めるため、人によって収入に大きな差が出る。
そのため、「個人タクシーは儲かる」「儲からない」のどちらも、一部の人にはあてはまり、別の人にはあてはまらない、という言い方になる。
次の章からは、まず公的な資料で確認できる数字から見ていこう。
2.個人タクシーの収入について、公的に確認できる数字
個人タクシーの収入について、公的な資料で確かめられる数字は限られている。台数、雇われる運転者の賃金、1台当たりの営業収入を順に見ていく。
個人タクシーは約2.5万台・全体の約13%
まず、個人タクシーがどのくらいの規模なのかを確認する。
全国ハイヤー・タクシー連合会の「TAXI TODAY in Japan 2026」によると、令和7年3月末現在の車両数は、個人タクシーが25,009台、法人タクシーが167,404台で、合計192,413台である。
個人タクシーはタクシー全体の約13%で、全国のタクシーのおよそ7〜8台に1台が個人タクシーという計算になる。
ただし、これは台数の統計であり、収入の統計ではない。
出典:全国ハイヤー・タクシー連合会「TAXI TODAY in Japan 2026(事業者数と車両数)」
賃金統計は雇われる運転者の数字
「タクシー運転者の平均年収は約450万円」という数字を見たことがあるかもしれない。
全国ハイヤー・タクシー連合会の資料(令和7年)では、タクシー運転者の年間賃金の推計額は450万8,200円、全産業の労働者は545万5,600円とされている。
この数字のもとになっている厚生労働省の賃金構造基本統計調査は、主要産業に雇用される労働者の賃金を調べるものである。
会社に雇われているドライバーの賃金であり、個人事業主である個人タクシー事業者の所得を示すものではない。
個人タクシーの収入の目安として、そのまま使うことはできない。
出典:全国ハイヤー・タクシー連合会「『令和7年賃金構造基本統計調査』によるタクシー運転者の現況」/厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況:調査の概要」
1台当たりの営業収入は売上の数字
個人タクシーの収入に近い公的な数字として、1台当たりの営業収入がある。ただし、この数字は読み方に注意がいる。
平成26年3月末は法人の半分程度
参議院の『立法と調査』(2024年6月)は、国土交通省の資料をもとに、平成26年3月31日現在の1台当たりの営業収入を、法人タクシーが約796万円、個人タクシーが約375万円と単純計算している。
同資料は、個人タクシー事業者にはサイドビジネス的な働き方も考えられるため、この比較は一概に言えないとも述べている。
出典:参議院『立法と調査』No.467「タクシー輸送の担い手の確保とその在り方」
営業収入は、経費を引く前の金額である
この「営業収入」は売上にあたり、燃料代や車両の費用などの経費を引く前の金額である。
つまり、手元に残る金額ではない。
また、10年以上前の時点の数字なので、現在の目安として使うのも適切ではないだろう。
この統計から分かるのは、当時の平均では個人タクシーの営業収入が法人の半分程度だったことまでで、その理由までは分からない。
事業者の年齢構成も手がかりになる
同じ『立法と調査』では、令和4年10月末の個人タクシー事業者の年齢構成も紹介されている。
年齢層別の人数を合計すると、65歳以上が全体の半数以上を占めている。年齢や体力、暮らし方によって、1年に営業する日数や時間は人それぞれだ。
平均の営業収入が低いことだけで「儲からない」と決めつけることはできないし、その逆もいえない。平均の数字は、どんな人たちの平均なのかとセットで読む必要がある。
1日の売上の公的な数字は法人のみ
「1日にいくら売り上げるのか」も気になるところだが、個人タクシーの1日の売上を示す公的な数字は見当たらない。
参考になるのは法人タクシーの数字だ。「TAXI TODAY in Japan 2026」には、法人タクシーの1日1車当たりの営業収入(日車営業収入)が地域別のグラフで示されている。
グラフ上の直近の値(令和6年度)は、東京都(特別区・武三地区)で61,476円、愛知県(名古屋地区)と大阪府(大阪府地区)は3万8,000円台〜3万9,000円台だ。
ただし、これは法人タクシーの車1台当たりの売上で、経費を引く前の金額である。個人タクシーの目安としてそのまま使うことはできない。
出典:全国ハイヤー・タクシー連合会「TAXI TODAY in Japan 2026(経営の現状)」
平均年収を示す公的統計は見当たらない
以上のように、個人タクシー事業者の所得、つまり売上から経費を引いた金額の平均を示す公的な統計は見当たらない。
公的な裏づけが見つからない以上、個人タクシーの平均年収として紹介されている数字は、割り引いて読む必要がある。次の章で、その理由を見ていく。
3.「平均年収」の数字が、記事ごとに食い違う理由
ネットで見かける個人タクシーの平均年収は、記事によって数百万円単位で食い違う。その理由と、数字を見るときの確認点を整理する。
ネット上の平均年収は記事ごとに違う
「個人タクシー 平均年収」と検索すると、「約340万円」とする記事もあれば、「600万〜700万円前後」とする記事もある。
「年収1,000万円の人もいる」という話も見かけるが、どれも出典が示されていないものが多く、公的な裏づけは見当たらない。
数字が揃わないのは、誰を対象に、いつ、何の金額を数えたのかが記事ごとに違うためだと考えられる。次で、数字を見るときの確認点を整理しておく。
収入の数字を見るときの4つの確認点
収入の数字を見るときは、次の4点を確認すると、数字の意味をつかみやすくなる。
- 売上か所得か
経費を引く前の金額なのか、引いた後の金額なのか - 地域
東京などの都市部の話か、全国の話か - 時期
いつ時点の数字か。古い数字の場合は現在と状況が異なる可能性がある - 誰の数字か
統計に基づく数字か、個人の経験談か
この4点が書かれていない数字は、参考程度にとどめるのが無難だ。
雇われる運転者でも地域差は大きい
地域による差の例として、会社に雇われているタクシー運転者の数字を見てみる。
全国ハイヤー・タクシー連合会の資料(令和7年)では、タクシー運転者の年間賃金の推計額が、全国平均の450万8,200円に対し、東京都では570万3,500円とされている。
同じ雇われのドライバーでも、地域によってこれだけの差がある。
個人タクシーの年収として紹介される数字も、どの地域の話なのかを確かめてから読みたい。
4.売上から手元に残るまでを仮の数字で見る
売上が全て自分のものになっても、その全額が手元に残るわけではない。経費、税金・社会保険を引いて手元に残るまでの流れを、仮の数字も使って見ていく。
売上から経費を引いたものが所得
「売上が全て自分の収入」というのは、売上を会社と分け合わない、という意味である。
実際の収入は、売上から経費を引いた金額だ。つまり事業の所得である。
経費は、先ほど挙げた燃料代や車両の費用などだ。
どれも個人タクシーを続けるうえで欠かせない費用なので、自分の場合にいくらかかるのかを書き出してみることが、収入を考える第一歩になる。
所得から税金・社会保険を払う
事業の所得からは、さらに税金と社会保険の負担が出てくる。
厚生労働省の公的年金制度の説明によると、自営業者は国民年金の第1号被保険者となり、毎月一定額の保険料を自分で納める。
会社員の場合は厚生年金に加入し、保険料は事業主と折半して負担する。法人で会社員として働いていた人が独立すると、この負担の仕組みが変わる。
健康保険や税金の手続きも、自分で行う。保険料や税金の額は、所得などによって人それぞれ変わる。
独立する前に、年金事務所や自治体、税務署などで確認しておくといい。
出典:厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第2 公的年金制度の体系」
仮の数字で見る収支の考え方
ここで、収支の考え方を仮の数字の例で見てみる。
以下は実際の金額や平均ではなく、仕組みを見るための仮の数字である。
| 項目(年間・仮の数字) | ケースA | ケースB |
|---|---|---|
| 売上 | 600万円 | 500万円 |
| 経費の合計 | 200万円 | 280万円 |
| 差し引き(事業の所得。税金・社会保険料を引く前) | 400万円 | 220万円 |
ケースBは、事故の修理費がかかり、一定期間営業できなかったと仮定した例だ。
2つのケースの売上は100万円の差だが、経費も増えたため、差し引きは180万円も違ってくる。さらに、ここから税金と社会保険料を払うと、手元に残る金額はもっと少なくなる。
大切なのは、売上の数字だけを見ていると、手元に残る金額を見誤りやすいという点である。
自分の売上と経費を当てはめて試算すると、収支のイメージが具体的になる。
休業・事故修理の期間は、収入が途切れる
個人タクシーは、自分が運転できなければ売上が立たない。
病気やけがで休んだ期間や、事故の修理で車が使えない期間は、売上がなくなる。一方で、保険料や駐車場代のように、休んでいる間も発生し続ける費用がある。
収入が途切れても支出が続く点は、個人タクシーならではのリスクだ。休業への備えは6章で触れる。
5.個人タクシーで儲かる人・儲からない人の違い
同じ個人タクシーでも、収入には差が出る。何が分かれ目になるのかを見ていく。
乗車回数と、無駄な走行
個人タクシーは、燃料代や車両の維持費を自分で負担する。どう走るかが、そのまま収入に響く。
需要をつかみ、空車で走る距離を減らす
お客様を乗せずに走る距離が長くなると、その分の費用だけがかさむ。
需要の多い時間帯やエリアを把握して空車で走る距離を減らせれば、その分の燃料代や車両の負担を抑えられる。
土地勘や稼げる時間帯は経験で身につく
当社の転職支援者によると、タクシー会社に入社した直後は、土地勘や配車アプリの使い方、稼げる時間帯やエリアの把握に時間がかかり、最初の1〜2か月は稼働率が上がりにくいケースがあるという。
個人タクシーを目指すなら、法人で働いている間に、こうした感覚を身につけておきたい。
固定客・リピーターと、予約の選び方
個人タクシーでは、リピーターや固定客がいると、営業の見通しが立てやすくなる。
丁寧な接客や、一人ひとりのお客様の好みに合わせた対応は、また選んでもらうきっかけになり得る。
予約を受ける場合は注意が必要だ。予約の時間が近づくと、別のお客様を乗せられず、迎えに行く場所の近くで待つ時間が生じる。
配車アプリ・協同組合との付き合い方
お客様と出会う手段や、事業を支える仕組みの使い方も、収入に関わる。
配車アプリは便利な反面、頼りすぎに注意
配車アプリを使うと、お客様と出会う機会が増える可能性がある。一方で、利用には手数料がかかる。
協同組合は、サービスと費用を確かめて選ぶ
個人タクシーの事業者が相互に助け合う協同組合に加入する方法もある。
たとえば日個連東京都営業協同組合では、事業用自動車の購入資金や修理・車検資金の融資、燃料を購入するためのカード、クレジットカード等の決済システムなどを扱っている。
ただし、組合ごとにサービスや費用は異なるため、加入を検討する組合に確かめておきたい。
収入が伸びにくくなるパターン
収入が伸びない理由は、自分の営業の仕方にも、働き方との相性にもある。両方から見ておく。
自己管理で防ぎたいパターン
たとえば、次のような状態が続くと、収入は伸びにくくなる。
- 需要を考えずに、目的もなく走り続けている
- 接客や運転に対するクレームが多い
どれも、個人タクシーでは自分で対処するしかない部分だ。
収入の数字だけでなく、こうした自己管理を続けられるかどうかも、考えておきたい点である。
タクシーを辞めた人の理由も参考に
当社の転職支援者によると、タクシーの仕事を辞めた人の理由には、「歩合で稼げなかった」「隔日勤務が体に合わなかった」「供給過多で稼げなかった」といったものがあるという。
入社前に聞いていた条件と実際との違いが、ミスマッチにつながることもある。
法人タクシーでの話だが、個人タクシーでも、収入の見込みと働き方の負担を前もって確かめておくと安心だ。
一人で転職活動を進めるのに迷ったら、ドライバー専門の転職エージェントを頼ってみるのも一つの手だ。
ドライバー業界特有の慣習や各社の実態に詳しい専任のエージェントが、転職活動をサポートしてくれる。
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6.個タク開業を目指す前に確かめておきたい数字
独立するかどうかは、噂の平均年収ではなく自分の数字で判断したい。収支の試算と、休業への備えの2点を確認しておく。
今の数字から独立後の収支を試算する
法人タクシーで働きながら独立を考えている人は、今の売上と給与の手取りを書き出すところから始めるといい。
そのうえで、4章で見た「売上→経費→所得→税金・社会保険→手元に残る金額」の順に、独立後の自分の数字を当てはめてみる。
手元に残る金額が、今の給与の手取りと比べてどうなのかを見ると、独立する意味があるかどうかを判断しやすくなる。
比べるときは、今の給与に固定給や最低保障が含まれているかも見ておきたい。個人タクシーには、そうした保障はない。
休業に備える貯蓄・保険の考え方
休業中も費用は続くため、開業前に、休業が続いた場合でも暮らしを維持できるだけの貯蓄の目標を決めておくと安心だ。
保険や共済は、補償の範囲や費用が商品ごとに異なる。具体的な内容は、加入を検討する先に確認しておきたい。
独立に向けて、今とは条件の違うタクシー会社で経験を積むことも考えるなら、転職支援サービスで求人を比べてみる方法もある。
一人で転職活動を進めるのに迷ったら、ドライバー専門の転職エージェントを頼ってみるのも一つの手だ。
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7.まとめ|稼ぎは「手元に残る金額」で見極める
個人タクシーが儲かるかどうかは、「平均年収」の数字だけでは判断できない。この記事のポイントは次の3つだ。
- 個人タクシー事業者の所得の平均を示す公的な統計は見当たらない
- 収入の数字は「売上か所得か・地域・時期・誰の数字か」の4点で読む
- 法人との比較は、経費・税金・社会保険料を引いた「手元に残る金額」で揃える



「儲かる」「やめとけ」のどちらも鵜呑みにするな。自分の数字で試算してから決めればいい。…まあ、そんなもんだ。








