「個人タクシー 条件緩和」と聞いて、年齢や必要な運転経歴の年数そのものが下がったのではないかと期待している人もいるだろう。
しかし国土交通省や関東運輸局の公示を見る限り、近年変わったのは主に試験の中身と申請・受験の受付時期、それに過疎地等に限った年齢上限・営業区域の扱いだ。
年齢区分ごとの運転経歴要件そのものは、大きくは変わっていない。
この記事では、個人タクシー事業者になるための条件の全体像と、「条件緩和」で実際に何が変わり、何が変わっていないのかを整理して解説する。
なお、審査基準の細部や申請の受付時期は、地方運輸局ごとに定められている。
この記事では関東運輸局の公示をもとに解説するので、ほかの地域で開業する場合は、営業区域を管轄する運輸局の公示もあわせて確認してほしい。

噂だけで動くと痛い目を見るぞ。何が変わって、何が変わってないのか。ここで一度ハッキリさせておけ。
- 年齢区分(35歳未満/35〜40歳未満/40〜65歳未満)ごとの運転経歴・無事故無違反要件
- 「条件緩和」で実際に変わったこと・変わっていないことの整理
- 法人タクシードライバーが個人タクシーへの転向を判断する際の比較軸
1.個人タクシー事業者になるための条件とは
結論から言えば、個人タクシー事業者になるには、「年齢・運転経歴(無事故無違反期間を含む)」「開業資金・営業所や車庫の確保」「個人タクシー試験(法令試験)への合格」という3つの条件を満たす必要がある。
それぞれは2章から順に見ていくとして、まずは前提となる基本から押さえていこう。
個人タクシーと法人タクシーの違い
法人タクシーは、タクシー会社に雇用されるドライバーとして働く形態だ。
一方、個人タクシーは自分自身が事業者となり、車両の所有・運行管理・収支のすべてを自分の責任で担う。
運賃収入がそのまま収入になる反面、車両維持費・保険料・営業所や車庫の費用も自分で負担する点が大きな違いだ。
個人タクシーになるには、法人タクシーでの乗務経験を積んだうえで、地方運輸局の審査を経て事業許可を受ける必要がある。
許可の種類(新規許可と譲渡譲受)
個人タクシー事業の許可には、大きく分けて2つの取り方がある。
新規許可は、運転経歴要件や試験合格などの条件を満たした人が、新たに事業許可を取得する方法だ。
譲渡譲受は、既存の個人タクシー事業者から事業を引き継ぐ形で認可を受ける方法で、関東運輸局の審査基準にも定めがあり、現在も制度として運用されている。
タクシーの「特定地域」に指定された営業区域では新規許可の申請が受け付けられず、「準特定地域」でも受付期間や参入枠が限られるため(3章参照)、地域によっては譲渡譲受が現実的な開業ルートになる場合がある。
ただし譲受人にも、新規許可と同じ審査基準が適用される。自分の営業区域の状況は、運輸局や協同組合の案内で確認しておくと安心だ。
2.年齢区分ごとに異なる運転経歴・無事故無違反の要件
個人タクシー事業者になるための運転経歴要件は、申請時点の年齢によって中身が異なる。
以下は、国土交通省の処理方針と、それに基づく関東運輸局の審査基準(令和8年2月17日一部改正)の内容だ。
出典:国土交通省 関東運輸局「個人タクシー事業の許可及び譲渡譲受認可申請事案の審査基準について」
35歳未満の要件
若い区分ほど、求められる条件は厳しくなる。
35歳未満で申請する場合、申請する営業区域で、申請日以前に継続して10年以上、同一のタクシー・ハイヤー事業者に運転者として雇用されていることが求められる。
あわせて、申請日以前10年間の無事故無違反も必要だ。
「同一の事業者で継続10年」という縛りがあるため、途中で会社を変えると条件を満たしにくくなる。
35歳以上40歳未満の要件
この区分では、同一事業者の縛りがなくなる代わりに、3つの条件をすべて満たす必要がある。
- 申請する営業区域で、自動車の運転を職業とした期間が10年以上(バス・タクシー・ハイヤーなど旅客を運ぶ事業用自動車以外の運転は50%に換算)
- そのうち、タクシー・ハイヤーの運転を職業とした期間が5年以上
- 申請する営業区域で、タクシー・ハイヤーの運転を申請日以前継続して3年以上
「5年」という数字は、この区分で求められるタクシー・ハイヤーの経歴の年数として語られることがある。
一方で、全区分に共通する法令遵守の「申請日以前5年間」を指して使われる場合もあるので、どちらの意味かを確かめておきたい。
いずれにしても、必要なのは5年だけではなく、土台は10年だという点に注意が必要だ。なお、申請日以前10年間無事故無違反なら、40歳以上の区分の要件で申請することもできる。
また、関東運輸局の細部取扱いでは、「継続して3年以上」の判断にあたり、転職に伴う離職期間が申請日以前3年間で合計30日以内であれば、継続しているものとみなすとされている。
40歳以上65歳未満の要件
縛りはもっとも緩い区分だが、年齢の上限がある。
40歳以上65歳未満では、申請日以前25年間のうち、自動車の運転を専ら職業とした期間が10年以上必要だ。
トラックなど、バス・タクシー・ハイヤーのように旅客を運ぶ事業用自動車以外の運転経歴は、50%に換算して算入される。
加えて、申請日以前3年以内に2年以上、申請する営業区域でタクシー・ハイヤーの運転をしていたことが求められる。
全区分に共通する法令遵守の要件
経歴の年数を満たしても、違反歴があれば申請できない。
年齢区分にかかわらず、申請日以前5年間と申請日以降に、運転免許の取消しや、道路運送法などの違反による輸送施設の使用停止以上の処分などを受けていないことが求められる。
さらに、申請日以前3年間と申請日以降に、道路交通法の違反がなく、運転免許の効力の停止も受けていないことが条件だ。
ただし、申請日の1年前より前に、点数1点の違反または点数が付かない違反があった場合は、いずれか1回に限り違反がないものとみなされる。
開業時・更新時の年齢上限
許可は取って終わりではなく、年齢の上限もある。
関東運輸局の審査基準では、新規許可には許可の日から概ね3年間の期限が付され、その後は期限の更新が必要になる。
人口が概ね30万人以上の都市を含む営業区域等では、新規許可の申請は65歳未満、期限の更新は75歳に達する日までとされている。自分がいつ申請可能になるかを、この上限から逆算しておくといい。
過疎地等では80歳未満まで認められる区分もできているが、これは「条件緩和」の中身にあたるため、次の章で詳しく見る。
個人タクシーの運転経歴要件を見据えて、経験を積むタクシー会社選びから考えたいときは、転職支援サービスを利用する方法もある。
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3.「条件緩和」で実際に変わったこと・変わっていないこと
近年の変化は、試験の中身、申請・受験の受付時期、過疎地等に限った年齢上限・営業区域の見直しの3つに集中している。
何が変わり、何が変わっていないのかを切り分けていこう。
2024年の地理試験廃止で何が変わったか
試験面の「緩和」として真っ先に押さえるべきなのが、地理試験の廃止だ。時期と、今後の試験対策の順に見ていく。
地理試験が廃止された時期と公示
2024年5月、個人タクシー事業者になるための試験のうち、地理試験が廃止された。
日個連東京都営業協同組合の案内によると、令和6年5月1日付で国土交通省から公示が発布され、5月13日付で関東運輸局からも公示がなされたとされている。
同じ案内では、「基本である年齢別運転経歴要件は全く変わっていません」とも明記されている。変わったのは試験で、土台の要件はそのままだ。
出典:日個連東京都営業協同組合「【運輸局試験】地理試験廃止について」
法令試験の対策に集中できるようになった
現在の関東運輸局の試験実施公示に定められているのは、法令試験のみだ。
廃止によって、試験対策の的は以前より絞りやすくなったと言える。合格基準などの詳細は、5章で見ていく。
申請・受験の受付時期の見直し
手続きの面でも、関東運輸局では2026年に大きな見直しがあった。
令和8年4月1日以降に受け付ける申請から、人口概ね30万人以上の都市を含む営業区域等の新規許可の申請受付が、「毎年9月」から「通年」に変わった。
「申請は毎年9月だけ」という情報は、改正前のものだ。
ただし、特定地域は引き続き申請を受け付けず、準特定地域は毎年度5月・9月・1月の各1か月に限られる。
関東運輸局管内では現在、特定地域に指定された営業区域はないが、東京都の特別区・武三交通圏をはじめ28の営業区域が準特定地域に指定されている。首都圏の主な営業区域では、年3回の受付期間に加えて、年度ごとに公示される参入枠の範囲で申請することになる。
あわせて、申請前に受ける事前試験の受付期間も延び、4月1日〜5月31日、8月1日〜9月30日、12月1日〜1月31日の年3回になった。
また、申請した後に受ける「申請後試験」は譲渡譲受と相続の申請者に限られ、新規許可は事前試験に合格してから申請する流れになった。
出典:国土交通省 関東運輸局「個人タクシー事業の許可等に係る法令の試験の実施について」/同「準特定地域一覧」/日個連東京都営業協同組合「開業までの流れ(申請後試験)関東運輸局の場合」
過疎地等の年齢上限・営業区域の見直し
東京新聞によると、国土交通省は2023年、人口30万人以上の都市を含む区域に限っていた個人タクシーの営業を過疎地等でも認め、年齢上限を80歳に引き上げる方針を示した。
関東運輸局の審査基準では現在、人口概ね30万人以上の都市を含まない営業区域等に限り、申請日現在80歳未満であれば申請できる。
ただし、申請日以前に1年以上の個人タクシーの経験があることが要件で(75歳以上は法人タクシー事業者による運行管理も必要)、これから初めて個人タクシーを始める人がこの区分で申請できるわけではない。
出典:東京新聞「一転、80歳個人タクシー運転手容認へ 高齢者の免許返納進めてきたのに…過疎地の『足』確保狙い、実効性は?」(2023年10月4日)
4.個人タクシー開業までに必要な資金・準備
年齢・運転経歴の条件に加えて、個人タクシー事業者になるためには開業資金の準備と、営業所・車庫の確保が必要だ。
開業資金の目安
関東運輸局の審査基準では、開業に必要な「所要資金」を次の4つの合計で見積もる。
- 設備資金(車両購入の頭金、運賃メーター器など)
原則80万円以上 - 運転資金(燃料費・修繕費など)
80万円以上 - 車庫に要する資金
借りる場合は権利金・敷金・賃料の3か月分相当 - 保険料
自賠責保険と任意保険(対人8,000万円以上・対物200万円以上)の12か月分
つまり、設備資金と運転資金だけで、原則として最低160万円になり、そこに車庫と保険の費用が上乗せされる。
この所要資金の100%以上を自己名義の預貯金等で、申請日以降つねに確保しておく必要がある。家族名義の預貯金は、資金の証明に使えない。
ただし、公示の金額は審査上の下限だ。車両の価格や車庫の賃料は人によって大きく変わるので、見積もりを取って自分の場合の金額を出しておきたい。
開業後すぐに収入が安定するとは限らないため、当面の生活費も別に用意しておくと安心だ。
出典:国土交通省 関東運輸局「個人タクシー事業の許可申請、譲渡譲受及び相続認可申請に係る細部取扱いについて」
営業所・車庫の確保
法人時代と違い、拠点は自分で用意する必要がある。
個人タクシーの営業所は、申請する営業区域内にあり、住居と営業所が同一であることが求められる。つまり、自宅が営業所を兼ねる形になる。
車庫は、営業所から直線で2キロメートル以内にあり、土地・建物について1年以上の使用権原があることなどが条件だ。
物件選びの段階から条件に合うかを確認しておくと、申請までのスケジュールを立てやすくなる。
個人タクシー協同組合との関わり
一人で全部抱え込む必要はない。
地域には個人タクシー協同組合などの事業者団体があり、無線配車や共同の福利厚生、行政手続きの情報提供などを行っているところもある。
関東運輸局の許可申請書にも、加入団体または加入予定団体を記入する欄が設けられている。
加入の条件やサービスは団体によって異なるため、開業を検討する段階から案内や説明会を確認しておくと、申請の流れや必要書類のイメージを持ちやすくなる。
5.個人タクシー試験(法令試験)の内容と合格までの流れ
年齢・運転経歴・資金の条件を満たしていても、個人タクシー試験(法令試験)に合格しなければ許可は受けられない。
法令試験の出題内容と合格基準
合格ラインは高く、9割の正答が求められる。
法令試験は、道路運送法や旅客自動車運送事業運輸規則など、タクシー事業に関わる法令の理解を問う内容だ。
関東運輸局の場合、40問中36点以上が合格基準で、試験時間は50分とされている。東京都特別区などの特定指定地域では、45問中41点以上・60分だ。
出題範囲が明確な分、法令の内容を体系的に学習しておくことが合格への近道と言える。
試験の実施時期と合格証の有効期限
試験日だけでなく、開業までの全体の流れで考えることが大切だ。
関東運輸局では、申請前に受ける事前試験が7月・11月・3月に実施されている。受付期間は3章で見たとおりで、受付を逃すと次の試験まで待つことになる。
合格証の有効期限は発行日から2年(65歳に達する日の前日が先に来る場合はその日まで)なので、申請したい時期から逆算して受験しておくといい。
6.法人から個人タクシーへ転向する判断基準
ここからは、今の法人タクシードライバーとしての働き方を続けるか、個人タクシーへ転向するかの判断について、収入・体力・キャリアの3つの軸からヒントを整理する。
収入・経営リスクの違いで比較する
当社の転職支援者によると、タクシー会社への転職直後は、保障給の適用条件や土地勘・稼げる時間帯の把握が壁になり、最初の1〜2か月は「思ったより稼げない」と感じるケースがあるという。
独立すれば、こうした立ち上がりの時期を保障給なしで乗り切ることになる。経営者として費用も自分で負担し、体調不良などで乗務できない期間はそのまま収入に響く。
開業資金だけでなく、収入が安定するまでの運転資金をどこまで準備できているか、一度棚卸ししてみることだ。
働き方・体力面で比較する
当社の転職支援者によると、隔日勤務が体に合わずにタクシーを辞めたケースがあり、特に60代でみられるそうだ。
また、大手では無線・配車の受け方まで細かくマニュアル化されていることがあり、経験者ほど窮屈に感じることもある。
個人タクシーになると稼働時間や営業スタイルの裁量は増えるが、長時間運転に伴う体力面の課題は形を変えて残る。
両方を踏まえて、希望する働き方を整理しておくといい。
今の勤務先を続ける道との比較
転向だけが答えではなく、今の職場に残る道とも比べておきたい。
当社の転職支援者によると、「給料が高いから」という理由だけで転職したものの、拘束時間や仕事量、休みの取りやすさなど給与以外の部分が合わずに長続きしなかったケースもあるそうだ。
個人タクシーにも、2章で見た開業・更新の年齢上限がある。
今の勤務先を続ける道と、経営者になる道を、年齢・体力・収入の3つの軸で比べてみてほしい。
一人で転職活動を進めるのに迷ったら、ドライバー専門の転職エージェントを頼ってみるのも一つの手だ。
ドライバー業界特有の慣習や各社の実態に詳しい専任のエージェントが、転職活動をサポートしてくれる。
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7.まとめ|条件緩和は試験・受付時期・過疎地向けの見直しが中心
個人タクシーの条件緩和は、言葉の印象ほど大きくハードルが下がったわけではない。この記事のポイントは次の3つだ。
- 近年の主な緩和は、2024年の地理試験廃止、関東運輸局での申請受付の通年化(首都圏の主な区域は準特定地域で年3回)と事前試験の受付期間の延長、過疎地等に限った年齢上限・営業区域の見直し(個人タクシー経験者が対象)
- 年齢区分ごとの運転経歴・無事故無違反の要件は、運転経歴10年を土台に基本的に変わっていない
- 転向は、収入・体力・現職継続の3つの軸で比較して判断する



楽な道じゃないが、自分の流儀さえ持ってりゃ何とかなる…まあ、そんなもんだ。






